2015年11月10日

まさかのパナソニック製ユニットを採用したブリヂストンの狙い

自転車界最大のイベントである「サイクルモード2015」が終了し、ようやく2016モデルをじっくり考察できる時間的余裕が生まれてきた。

10月あたりから各社の動向をチェックしていたのだが、ヤマハの「YPJ-R」などの大型ニュースに気を取られて、BSの廉価帯電動の意外な展開について、すっかり抜け落ちていたので取り上げてみたい。

ブリヂストン「2016アシスタベーシック」の脅威と展望


2015年までのラインナップでは低価格帯商品でライバル2社に対抗馬を持たなかったが、2016年では「アシスタベーシック」という名称で実売8万円台(税抜)という切り札を出してくることとなった。

これは推測ではあるものの、パーツの製造のほとんどを海外に依存する自転車の現状において、為替の影響をモロに受けるであろう各社として、ボトムラインを上げたいという気持ちは強いが、これを下げようというのは、普通に考えて正気とは思えない。

それはきっとブリヂストンの内情として、収益率において危機として迫るものがあるに違いない。
大手マスプロメーカーとして、一般自転車を中心としたビジネスモデルを展開することは、今後一層厳しくなってくるであろう。

記憶に新しいところでは、中国地方の福知商会の倒産の例がある。
急激な円安によって、従来のビジネスモデルが破綻し、10億とも言われる負債を抱え自己破産を申請したのだが、これもまた一般の自転車の流通では飯が食えなくなったことを意味する。

関連情報
自転車卸の福知商会(山口・下松市)/自己破産へ 超円安コスト高
http://n-seikei.jp/2015/11/fukuchishoukai-tousan.html

国内最大の生産台数を誇るブリヂストンと言えども例外ではなく、早急にビジネスモデルを転換しなければ、大勢の社員たちが路頭に迷うという不安が現実のものになりかねない。

そこで狙うは業界でも好調なヤマハやパナソニックの主力商品、電動アシスト自転車にターゲットが絞られることは素人の目から見ても順当な動きになるだろう。
しかし自社ユニットを長年持たなかったブリヂストンは電動主力メーカー3社の中で遅れを取ることになり、ブリヂストンブランドの推定販売シェアはどんなに高くても20%台といったところだろうか、とにかく何か起爆剤的な商品を欲していたに違いない。

今回発売されたアシスタベーシックは電動3社の中でもボトムラインを十分に狙える価格帯の商品だ。
2015までは流通業界に圧倒的販路を持つヤマハとパナソニックがボトムラインの2強であったが、2016年ではそこにブリヂストンが参入することとなる。
特に注目すべきは、このボトムラインの商品をブリヂストンは自転車専門店に流す方針だということだ。
もちろん、これは営業担当のセールスマンのリップサービスなのかもしれない。
しかし他社が値上げになり、自転車店ルートに低価格な商品が供給されれば、販売のパワーバランスが変わり、今までは価格面で苦戦を続けてきた我々自転車店にも勝機の目が出てきた可能性はある。

自転車販売店としてが、消費者に対して高付加価値商品を提案しなければならないことは理解しているが、それでもコモディティ化を続ける電動アシスト自転車市場から取り残される訳にはいかないのだ。

搭載されるのはパナソニック製ユニットとバッテリー




これには自転車店関係者のほぼ全員が驚いたのではないだろうか?
ブリヂストンがオリジナルの電動アシスト自転車を販売したのは、ヤマハPAS発売から4年後の1997年だ。
それからエベルトで自社ユニットを搭載するまでの長い期間において、ヤマハ以外からのユニット供給を受けることはなかった。
しかし、ユニットサプライヤーのチカラが強くなり、各社の生き残り合戦が始まった昨今においては、複数のサプライヤーから供給を受けることも珍しくはなくなった。
今回のパナソニック製ユニットの採用も、価格競争に勝つための戦略なのだろう。

高性能をテーマとして、様々なセンサーや機能を持つヤマハ製ユニットオンリーでは、市場の需要の全ては満たせない。
そこで採用されたのが旧々タイプであるパナソニック製ユニットだと見ている。

まだ写真でしか確認はしていないが、これは2015モデルのビビTXに使用されているものであり、速度センサーやクランク回転センサーを持たない数世代前のユニットながら、その質実剛健性はパナソニックの電動を販売したことのある自転車店の人間であれば誰しもが熟知しているところだ。

以前の記事で取り上げたことがあるが、センサーの類が少ないからといって、特に困ることはないだろう。
最新の電子レンジでも、20年前の電子レンジでも、温めるという機能に差異はないのと同じで、上手く使いこなせば、単機能のほうが優れているという話も多々ある。

関連記事
gyutto mini K vs PAS Kiss mini
http://fiction-cycles.blogspot.jp/2014/03/gyutto-mini-k-vs-pas-kiss-mini.html


ちなみにバッテリーはパナソニック品番「NKY491B02」のステッカー違いだ。
ということは、互換性の高いパナソニックのバッテリーの中から、大容量のものに載せ換えできる可能性が高い。
これはもちろん、嫌がらせのような載せ換え防止対策がされていない前提での話だが・・・

アシスタベーシックの安さの理由


基本的には10万円を超える電動アシスト自転車のラインナップの中にあって、このアシスタベーシックはおそらくライバル3社と比較しても、2016年は最安値になる公算が高い。
はっきり言って、もっと思い切った手抜きとパーツのダウングレードを計れば、まだまだコストダウンは容易なのであろうが、現実的なところで、実用面や安全面を配慮し、ブリヂストンブランドに恥じないクオリティーを求めれば、このくらいが丁度良い。

円安が加速し、原価が高騰する今でも、このプライスを打ち出せる理由としては、もちろん市場シェア獲得の思惑もあるだろうが、もうひとつはブリヂストンサイクルの誇る圧倒的な生産能力だろう。

元々から中国の常州に自社工場を持っていたブリヂストンサイクルだが、2013年の竹内社長時代に生産能力の拡大のため新工場への移転を計画、そして2015年春からは新工場を稼動させ、その生産台数は年間100万台を目指しているとされる。
残念ながら竹内元社長とは、交代直前の挨拶以降お会いしてはいないので、その後は存じないが、ニュースを読む限りでは当初の計画を確実に踏襲しているようだ。

これは余談だが、近年のブリヂストンの推進力の一端として、山梨県の盟主でもある渡辺相談役は大きいのだろうと、個人的には思っている。

つまり、何が言いたいかというと、中国内販売も視野に入れた様々な戦略の中で、ブリヂストンサイクルが生産拡大路線に進んだため、他の電動2社に対して、価格面でのより大きなアドバンテージが生まれたということだ。

ユニットはすべて外注であっても、他の部分の大半を自社でまかなえる強みは確かにある。
ここが、自転車の製造ラインを持たないヤマハ、国内生産が主力のパナソニックとの違いだ。

複数社のユニットを採用し、ユニットサプライヤー間での価格競争が起これば、ブリヂストンに利有りとなる。

それに加え、ベーシックでの価格の秘密はもうひとつあると考えている。

コンセプトにある「おしゃれ仕様」とは、コーティングのロッドバスケット、共色のドロヨケ、共色のパイプキャリアを指しているのだろうが、これももしかしたらコストダウン戦略の一環なのかもしれない。
当然自分は工場原価など知る立場にもないのだが、最近見る1万円台の自転車には同じ仕様のものが多い。
普通は、わざわざ塗装するのだから高くなるように思えるが、中身はただの鉄だ。

ここ数年で異常なまでの高騰ぶりを見せるステンレスを使うよりは、鉄に塗装やコーティングしたほうが遥かに安上がりなのかもしれない。

パナソニックの2015ビビTXがほぼ同価格でステンレスパーツを多用しているのに対し、アシスタベーシックは部材を鉄とアルミに置き換えることで、コスト問題をクリアしている可能性が高い。

ひとつ心配なのは、あまりにパイプキャリアを採用する自転車が増えたことである。
組立やタイヤ交換の度に「エキスパンダーの筋トレ」状態をやっていては、高齢店主の脳の血管がいつ切れても不思議ではない。






2016年はブリヂストンのチャレンジの年

2016年のラインナップを見る限り、取り扱うユニットが3社に分かれるというのはリスク分散であると同時にリスクの塊でもある。
これまで、販売店サイドにおいて、メイン車種のメーカーは統一する方向にあった。
というもの、電装関連のアフターサービスを行う場合、検査器やマニュアルを準備しなくてはならないし、各メーカーの講習会にも積極的に参加しなければならなため、商品数は少ないほうが手間がかからないからだ。

ここで厄介になってくるのは、ブリヂストンの取扱店は3社のユニットを取り扱うための技能が必要なため、これまでの3倍のマニュアルが必要になることだ。
操作方法も各社で若干異なるため、あまり経験のない販売店で購入してしまうと、正しい説明が受けられない可能性も考えられる。

もちろん、ほとんどの販売店はヤマハとパナソニックのどちらかを扱っているケースが多いため、意外とあっさり順応できると思われるが、そこまでのことをブリヂストンサイドが計算に入れていたかは分からない。

これはミヤタサイクルの例であるが、かつてミヤタはパナソニック製ユニットを全モデルで採用していた。
しかし途中からヤマハユニットに変わり、少し前にはオリジナルユニット(日本電産コパル製)に切り替えを行っている。
消費者側にとっては、特に問題はないかもしれないが、困るのは販売店だ。

修理や検査のための機材に互換性がなく、結局3社分の充電器やスイッチを保管するのは思いのほか手間がかかり、やがて取り扱いをやめてしまったという例も良く聞く。

各メーカーとユニットの供給元についてはこちらを参照
関連情報(Cyclo Assistさん)
日本で装着されている電動自転車用アシストユニットブランド一覧
http://cycloassist.com/archives/132

ブリヂストンサイクルとしてもこの点は十分に議論されているとは思い、外野の勝手な予想では、今後は高付加価値、高単価商品に自社のフロントモーター、そして低価格帯のボリュームゾーンはパナソニック製ユニットという、2極化を推進してくるのではないかと思う。

今回思い切って自社ユニットを主力に持ってきたブリジストンは明らかに勝負に出てきている。
その証拠に、万一のトラブル対処のために、ユニットを組み込んだフロントホイールを前線に配備するような動きもあると、一部では聞こえてきている。

激化するユニットサプライ合戦 最後に笑うのは?

フィクションサイクルが約20年間に渡り、国内外の電動アシスト自転車動向を見守ってきた。
その中で一つの答えとなりそうなのが、センターユニットだ。

こんなことを書けば、また馬鹿なことをと思われるが、「センターユニット以外ではバックフリップができない」のだ。



ロードレーサーであれママチャリであれ、乗り味に優れた自転車はバックフリップができる。
だから、世界の主戦場ではセンターユニットしか生き残れない。

これは走ることがテーマの主に海外スポーツ機種の話であるが、ボッシュ、パナソニック、ヤマハ、シマノ・・・そのほとんどがセンターユニットで勝負をかけてきている。

しかし、国内マーケットはそうではない。
自走式容認国を除き、海外ではすでに注目されなくなってきているフロントモーターではあるが、走ることだけに重きを置かない日本国内の需要に対して、多種多様なユニットはまだまだそのメリットを活かすことができるだろう。

例えば、ハイブリッドカーの代表プリウスは欧州で苦戦しているが、国内では圧倒的な支持を得ている。
VWの不正問題で若干揺らいではいるものの、クリーンディーゼル大本命の理由として、エコと走りの両立が上げられる。
彼らの感覚で捉えては国内では上手くいかないだろう。

国内を制するために必要なのは、ユーザーを惹きつける魅力的なパッケージだ。

自動車メーカーの王様、トヨタが成しえたように、国内トップメーカーのブリヂストンのノウハウも持ってすれば、フロントモーターを主軸として戦うことも出来るだろう。

大切なのは、エンジンの中身の性能ではなく、売れるためのパッケージングを企画するチカラだ。
日本という特殊なマーケットを誰が制するのか?
はっきり言ってまだ分からないというのが本音だ。

関連記事
【最新2016】 ブリヂストン2016年通学自転車カタログ
http://fiction-cycles.blogspot.jp/2015/10/2016-bsc-catalogue.html

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