2015年7月27日

Panaonicクロモリバイク「ORC18」試乗インプレ

最新バイクばかり触手を伸ばしてきたフィクションサイクルが、実は密かに試乗を熱望していたのがクロモリバイクだ。
今回は日本の伝統的自転車メーカーであるパナソニック製のクロモリバイク「ORC18」の試乗インプレの機会を得たため、そのレポートをお届けしたい。

Panaonic ORC18

ORC18は一見クラシカルなバイクに見えるが十分にレースで闘えるスチールバイクだ。
クロムモリブデン鋼にニッケルを加えることで粘りをもたせたニッケルクロモリチュービング。
この粘りは時に硬く感じるかもしれないが、薄肉化することでしなりを持たせ、絶妙なバネ感を発揮する。
また、安定感と振動吸収に優れたオーバーサイズステムのオリジナルカーボンモノコックフォークを採用。
フレームセットでは、電動シフター・シマノDi2専用フレームが選択可能。クロモリ特有の乗り味と率直な操作性を体感していただきたい。
http://cycle.panasonic.jp/products/pos/custom_order/
一見すれば、昔懐かしいホリゾンタルのスチールバイクのシルエットではあるが、メーカーサイトの説明にもあるように、各所に戦闘力アップのための進化の形跡が見受けられる最先端のクロモリフレームだ。
パナソニックのロードバイクに詳しいものなら知っている話だが、品番のアルファベットがそれぞれ車種と素材、そして最初の数字は小さいほうがフラッグシップとなり、0が最上級である。
次の数字はイヤーナンバーを表している。

2015年のラインナップから例えを出すとこうなる。
FCXT07→
F:フレームオーダー、CX:シクロクロス、T:チタン、
0:上から0段下のグレード(1番目)、7:発売から7年目のモデル(マイナーチェンジ含む)

ではこの「ORC18」の場合はどうか?
O:オーダー、R:ロードレーサー、C:クロモリ
1:上から1段下のグレード(2番目)、7:発売から8年目のモデル(マイナーチェンジ含む)

つまり、このORC18はフラッグシップではなく、2番目のグレードとなる。
それならクロモリ最高峰はORC08か?

と言うと、そうではない。
ここには非常に面白い話があるのだ。


Panasonic ORC08/FRC08
90年代欧州レースを席巻した、パナソニックバイクの直系モデル。
長年自転車乗りをやってきて、これを知らないという人も珍しいのではないかというくらいの名車である。
今でこそレースイメージの低いパナソニックではあるが、90年代には、ツールドフランス、パリ・ルーベといった世界最高峰の自転車レースに優秀な機材を送り出す一流自転車メーカーとして名を馳せていた。
かつてはフォンドリエストやエキモフといった名選手がチームに在籍しており、彼らの駆ったバイクと同じものを一般のライダー達にも供給しようというところから、このクロモリフレームは長年に渡りパナソニックのフラッグシップとして君臨してきたのである。

しかし月日は流れ、レース機材のフレーム素材はアルミニウム、そしてカーボンファーバーと変化していき、スチールはプロの舞台から姿を消すことになる。
このORC08シリーズも最新マシンとの性能に水をあけられる一方となり、その評価も過去のものなっていくが、パナソニックはこのバイクを20年以上販売し続けて来た。

伝統と格式、と言えば聞こえは良いかもしれないし、憧れている人も多いだろう。
しかし見方を変えれば、過去の遺産のレプリカであって、なんとも懐古的なのである。

クロモリにはまだまだ発展の可能性はあると信じる一方で、この偉大なるクロモリバイクをフラッグシップの座から引き摺り下ろすことのできなかったパナソニックは、モデル品番こそ2番目のグレードであるORC08に最新のテクノロジーを投入したのだ。

過去の名車のレプリカであるORC08シリーズは進化をやめてしまったバイクだ。
しかしORC18には過去のシガラミがない。
進化し続けることが使命なのだ。

その名の通り、最初こそ2番手の性能だったが、常に進化を続けたORC18はフラッグシップモデルを性能で抜き去り、現代版クロモリの最高峰としてパナソニックのラインナップに存在するのだ。


ORC18のクロモリバイクとしての進化

ORC08との相違点

・ニッケルクロモリチュービング
・オーバーサイズヘッド
・カーボンモノコックフォーク
・シマノDi2専用フレーム(選択可能)

この中でも大きく影響しているのが、カイセイ8630Rチュービングだろう。
ヘッドのオーバーサイズ化で剛性を確保しつつ、軽量化にも成功しているのだ。

ORC08
1,920g (550mmサイズフレーム単体)

ORC18
1,710g (550mmサイズフレーム単体)

その差210g。
そもそもフレーム重量が1kgを切るのが当たり前の世界において、1.7kgはお世辞にも軽いとは言えない。
しかし、それを上回る魅力がこのバイクに存在するのか?
今回はサイクリストでありフリーライターでもある池原氏とともに対談形式でインプレを行ってみたい。

試乗バイクデータ
・Panasonic POS ORC18 フレームサイズ530mm
コンポネート:Shimano 105(完成車オーダー)
ホイール:Mavic ksyrium SL
タイヤ:Panaracer RACE L Evo2 23C
重量:8.6kg(実測ペダル付き)
※インプレの公平性を高めるため、ホイールは常に同じものを使用



Panasonicクロモリバイク「ORC18」試乗インプレ

フィクションサイクル店長(以下:店)
「インプレの前に言っておきたいんだけど、クロモリの話って業界じゃなかなか本音が出しづらいよね、まさに鬼門(笑)」

ライター池原(以下:池)
「意味はなんとなく分かりますよ、今ってちょっとしたクロモリブームじゃないですか?雑誌やネットでもクロモリを賞賛するような記事はたくさんありますし、“クロモリの良さが分からない人=自転車の良さが分からない人”みたいな空気はたしかに感じます(笑)」

店:「これってね、たぶんこの業界でチカラを持っている方々がクロモリフレームに携わっているってことだと思うんだよね。例えば若手のカリスマのKさんいるでしょ?彼が登場する紙面の隣とかにクロモリの悪口は書けないわけ。もちろん彼の作品は素晴らしいんだけど、あまりにスチールフレームを美化しすぎるってのも問題かなと思う」

池:「以前どこかで見かけましたけど、“クロモリフレームは魔法の絨毯の乗り心地”ってフレーズ。自分のようにスチールフレームでロードレースを始めた人間にとっては、ちょっと納得できないところもありますね」

店:「もうね、今はネットとかで情報だけが先行してるから、どこかで聞きかじった話が無意識の内に刷り込まれてしまった人が多いよ。サイクルモードでもあの狭い試乗コースを一周しただけで、『いやぁ、クロモリはやっぱり疲れないよねー』って満足そうにしていたお客さんいたけど、良さが理解できないのはカッコ悪いとか、分かってるフリをしなきゃいけないっていう風潮が極端なまでのクロモリ美化を生んだ要因のひとつじゃないかなって思うよ」

池:「結局のところ、今の主流であるカーボンやアルミバイクっていうのは輸入品ですからね、国内大手メーカーや個人ビルダーにしろ、自分達で作れるのはスチールフレームしかないわけですから、クロモリ美化の流れはある種の防衛手段なのかもしれませんね。それに加えてNAHBS(北米ハンドメイドバイシクルショー)なんかの人気ぶりもあってのことなのでしょうけど」

店:「スチールフレームの人気が上がって業界が盛り上がってくれることはこちらとしても歓迎すべきことなんだけど、一方で受け売りの情報だけを鵜呑みにするんじゃなくて、やはり自分の足で確かめて欲しいね」

丸一日かけての試乗でORC18に迫る

池:「さて、今回はかなりの距離を走りましたが、どうでしたか?平地の高速巡航あり、山岳あり、ダウンヒルあり、スプリントありと、かなり乗り応えあったんじゃないでしょうか?」

店:「いやね、正直に言うとね、良かったよ。」

池:「え、試乗前に世間でクロモリが美化されているとか言ってましたけど、まさかの手のひら返しですか?(笑)」

店:「もう少し詳しく言うと、思っていたよりずっと良かったって話。自分がレースを始めた頃ってみんなクロモリだったわけ。そしてアルミに乗り換えて、そしてカーボンになってさ。当然機材がどんどん進化してるんだから、性能的にもっと引き離したって思ってたんだけど、実はそんなに差が出ていなかったなって。逆にカーボンフレームに乗るようになってからクロモリの良さを忘れてたね」

池:「クロモリのいいところというと具体的にどこですか?僕が感じたのは乗り心地がマイルドだったのと、細いフレームの割りにはダッシュが効くっていうか、反応が早いっていうか、無理がないっていうか」

店:「まず剛性についてだけど、やっぱり鉄だからね、あるよね。例えばさ、目の前に同じ厚さの「鉄」「カーボン」「アルミ」の3枚の板があって、どれか曲げてみてくださいって言われたらどれにする?」

池:「そうですね、2ミリくらいだったら、アルミかカーボンですかね?鉄は曲げられる気がしません。カーボンなら気合でパキってできそうですけど(笑)」

店:「たぶんだけど、アルミは簡単に曲がって、カーボンはしならせるのが限界、そして鉄はビクともしないだろうね。鉄フレームって軟らかいって言われているけどさ、やっぱり硬いんだよ。このフレームの一番薄い部分は0.5ミリしかないんだけど、硬いからこそここまで薄く出来る。カイセイの8630Rの特徴としては高剛性で粘りがある。一方でしなやかさを求めたカイセイ4130Rというのがあるくらいだから、パナソニックがクロモリの近代化に必要なのはやっぱり更なる剛性アップって考えたんじゃないかって思うね」


思いっきり踏み込んでこそ真価を発揮する粘りと剛性

池:「粘りの剛性からくる反応の良さは確かにありますね。例えば今の超高剛性のプロ用カーボンフレームとか、踏み込んでも僕の脚力じゃ反応してくれないっていうか、冷たくあしわれてる感じがして(笑)まぁそれでも車体が軽いからけっこう楽に走っちゃうんですけどね」

店:「自分も同じこと考えてたんだけど、クロモリの良さっていうのは優しさだね(笑)ペダリングで入力してあげたら、まずはフレームが受け止めてくれて、そして推力に変換してくれる。この絶妙な間(ま)が心地良い。もしガチガチのカーボンだったら、最初のうちは軽さとダイレクト感を武器にバンバンかっ飛ばせるけど、踏めなくなったら後がない」

池:「優しさって(笑)けど気持ち良くは走れるけど、やっぱりそれなりに足は消耗しいるわけだし、ただ優しいだけのバイクではないですよね」

店:「そこがパナソニックが提案するレースで戦えるスチールバイクってやつの本当の意味だね。早速く走らせたいなら、それに見合う脚力を持って来い、ってさ。このバイクの良さはなんと言っても鋭い加速。加速してるときの乗れてる感。あれ?自分ダンシング上手くなった?って楽しくなる。この感覚が忘れてた部分なのかも」

池:「そうですね、戦闘力としてはかなり高いと思います。特に重量が不利にならない高低差の少ないレースでは自分の体力を効率良く使えるし、レースでクロモリは論外っていうのは一部で当てはまらないのかもしれませんね」


魔法の絨毯じゃないけど、カーボンより気楽

店:「次に乗り心地というか、振動吸収性についてだけど、クロモリとカーボンフォークの相性はかなり良かった。自分はこの組み合わせってほとんど試したことがなくてね。だってクロモリフレームのフォークはクロモリってのがスタンダードだったわけだし、意外と知らない人が多いんじゃないかな?」

池:「これは車重の関係もあるかもしれないけど、フルカーボンのいつものフレームより、路面からの余計なインフォメーションが少なかったと思う。微妙な表現になっちゃくけど、フルカーボンの場合は、路面が荒れてますよー、けど衝撃はちゃんと吸収してますよーって感じ。このバイクは路面がそもそも荒れてるってことがあまり伝わってこない。これは非常に良い意味でだけどね」

店:「変な例え話だけどさ、フレーム自体ががコールセンターの担当者だとして、フルカーボンは、『クレームの電話いっぱい入ってますけど、全部こちらで処理しております』って状況を伝えてくる有能タイプでさ、クロモリとカーボンフォークの組み合わせのほうは、『クレーム?なにそれ?あー、あんなのクレームじゃないわよ、大丈夫、任せておいて!』って実は見えないところで仕事こなしてるベテランみたいな(笑)この気遣いさせない感じが頼もしい」

池:「今日の試乗車ですけど、エアーを8kgfでセッティングしてたんですけど、乗り始めて、あれ?7kgfも入ってないのかな?って一瞬戸惑いましたね。ただ体に伝わってくる乗り心地だけじゃなくて、カーボン特有の音の反響が無かったことも理由かもしれないけど、とにかく細かいノイズが気にならなかったし、それによって精神的にも多少は楽だったような気もしますね」

店:「その効果は下りでも大いに発揮されてる。いつもならインプレの文章とか考えながら下るんだけどさ、今回はバイクのこと完全に忘れてた(笑)」

池:「ダウンヒルでの安定感は折り紙つきですね。攻めても怖さを感じないし、フォークやジオメトリーバランスの良さもあるだろうけど、無意識にさせちゃうってすごい」


重量を感じさせない登坂性能・・・しかし

店:「やっぱり登りは傾斜によってジワジワくるね。ダンシングで踏み倒しているうちは思ったよりクロモリの重量差を感じさせないのはさすがって思ったけど、シッティングに切り替えた途端にやっぱり鉄だなって」

池:「頑張って踏んでいる限りはウイップがうまく推力になっているっていうか、リズムよく踏めば途切れずに登っていく感覚はある。けど上ハンにしがみ付いて小さいトルクでクルクル回していくような乗り方は苦手。なまじ踏むと進むって感覚があるもんだから、ついついバイクを振りながら乗りたくなっちうね。もうそんなに足が残ってなくても(笑)」

店:「それとね、この試乗車はもともとシマノのR500がセットアップされた状態で準備されていたんだけど、その組み合わせで坂上ったらもっと悲惨だったね。バイクが重たいからダンシングで加速させたいって思っても、あの前後で2キロ近いホイールのせいで、リズムに乗らないからストレスを感じた。もしこの組み合わせで使っている人はぜひ軽量ホイールを検討して欲しいね」

池:「僕も良く見ますけど、クロモリのロードが好きで乗っていているけど、純正の重たいホイール付けている人。クロモリってやっぱり重くてダメなんだな、アルミかカーボンにしようって買い替えを考える前にバランスを見直すべきと思う」


はたして『買い』のバイクなのか?

店:「今日は新しい発見があって良かった。もし全然クロモリがダメだったら、なんか自分の過去まで否定してしまうような気がして(笑)」

池:「店長のクロモリへの思い入れはかなりのものですね。まぁ世間的には少し見直され始めているクロモリフレームですが、まだまだ大半の認識としては、『昔の重たい自転車』といったところが大きいと思いますので、クロモリの可能性を再確認できたのは良かったと思います」

店:「これDi2にも対応しているし、これから1台なにかロードを組んでみようと思っているなら検討してもいいよね、そのくら面白いバイクだと思う」

池:「おっと、お買い上げですか?それではこのバイク、評価として『買い』でしょうか?」

店:「うーん、まだいらないかな(笑)レースで使うってことは、イコール勝ちたいってことでしょ?やっぱり少しでも性能の良いバイクに流れてしまうのは仕方ないと思う。それとこのフレームってまだまだやることあるでしょ?このあたりについては海外の新興スチールフレームブランドには及ばない。やっぱりレース機材特有の“危うさ”がスパイスとして必要だよ」

池:「あれだけ持ち上げておいて、ここで更なる手のひら返しとは(笑)」

店:「今は必要ないとしても、いずれは優雅にスチールバイクに乗りたいっていう気持ちはあるよ。そのためにも、懐古主義的でない、こういうバイクの存在は重要だね。特にパナソニックのカタログ編成のせいで、隠れた名車になってしまっているのが残念」

池:「国内の工場で日本人の職人が1台1台手作りしているってだけでも貴重な存在ですからね」

店:「細部まで本当に良くできていると思う。今回は試乗インプレがメインだったけど、細かい工作も多くて、これでフレームセット価格130,000(税抜)~なら、お買い得とは思う。特にクロモリオーダーフレームというものを体感するには、ベストな選択でしょ」

池:「鉄フレームを過去の存在にしないためにも、更なる進化を遂げてもらいたいものですね」




インプレライダー紹介

池原和広:1996年生れ/和歌山出身
2015年の7月にロードに乗り始める。
その経験の少なさからは考えられないほど鋭い観察眼を持っており、フィクションサイクルの店長よりインプレライダーを依頼されフリーライターとなる。
脚質:ルーラー

これまでの主な戦績
 2015年7月 第1回目早朝走行会  完走
 2015年7月 第2回目早朝走行会  完走
 2015年8月 自転車用サングラス 購入予定
※架空の人物です






写真で見る細部の造形


フィクションサイクル販売価格

FRC18
 フレームセット
  130,000円(税抜)~

ORC18
 105仕様
  225,000円(税抜)~
 ULTEGRA仕様
  265,000円(税抜)~

※納期:約1ヶ月

2016年モデル (2015年10月追記)

FRC19
 フレームセット
  145,000円(税抜)~

ORC19
 105仕様
  245,000円(税抜)~
 ULTEGRA仕様
  285,000円(税抜)~

※納期:約1ヶ月
※フィクションサイクルではパナソニックのオーダー車を取り扱っておりませんので、何ヶ月待っても納品はされません。何卒ご容赦ください。

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