2014年9月15日

4輪自転車「クークル」はなぜ倒れにくいのか?

少し前から話題になっていたMAX株式会社の「クークル」が、ついにフィクションサイクルのインプレに登場することになった。

まずこの「クークル」というのがどんなものなのか、メーカーの概要を見てみよう。

シニア向け自転車「クークル」
安心して乗れるシニアのための自転車『クークル』「乗りたくても乗れなかった。」 そんな方にも安心して乗れる自転車です。
http://wis.max-ltd.co.jp/hcr/product_catalog.html?product_code=KH91001

まあこの外観からしても、乗りやすいのは間違いないだろうが、従来型の三輪車とは根本的に何か違うところはあるのだろうか?
そもそもマックスといえば、あのホッチキスで有名なマックスである。
なぜ自転車なのかという疑問もあるが、調べてみれば、ホッチキス、釘打ち機では国内最大手なのは言わずとも、今では電動工具や住宅設備、そして介護用品となんでも御座れといった商売の幅広さだ。
そして2013年には、かつて「NISHIKI」ブランドで有名だったカワムラサイクルを完全子会社化しており、カワムラの強みであった介護用品界への進出にも意欲的であると考えられる。


そもそもクークルを生み出したのはランドウォーカー株式会社という企業であり、その親会社がカワムラ自転車だ。
かつては「ランドウォーカー ニュークークル」という名称で、イベントスペースで試乗をやっていたのを見かけたが、今回販売元が資本の大きいマックスになったということもあって、メディアへの露出も増えたのだろう。

これが2009年頃にランドウォーカーが販売していたときにリーフレットだ。
現行のクークルより機構が複雑で、ハンドルが360度回転したり、後退できたり、なんと前輪駆動だったりと、自転車とはかけ離れた乗り物であった。
そして時は流れ、資本提携という名の買収により、販売は親会社へと引き継がれていったが、クークルの基本理念は変わることなく、そしてさらに洗練されて登場したのが現行「クークル」だと言えよう。

現在発売されているクークルには「クークルS」と「クークルM」の2種類があり、その違いは車輪の径が違うところが大きい。
その他、適応身長は同じ、重量差も1キロほどしか変わらない。

クークルS
前輪:12インチ/後輪:12インチ
GD1.5m(ペダル1回転で1.5m進む)

サイズ:全長 120cm×全幅 60cm
重量:22kg
価格:93,000円+消費税

Amazon
ユニバーサルサイクル「クークルS」12インチ

クークルM
前輪:14インチ/後輪:14インチ
GD1.75m(ペダル1回転で1.75m進む)

サイズ:全長 136cm×全幅 60cm
重量:23kg
価格:95,000円+消費税

Amazon
ユニバーサルサイクル「クークルM」14インチ




今回フィクションサイクルが試乗したのは、車輪の一回り大きい「クークルM」のほうだ。
この車輪の違いだが、より安全を目指すのであれば12インチ、自転車として少しでも快適に乗りたいのなら14インチをチョイスするのがいいだろう。


まずはインプレの前に注意書きを読もう。
気になるのは4番目。
「絶対に」と強調されていることからも、普通の自転車では起こりえない挙動が出ると予想される。

この自転車のコンセプトとして、「安全速度の自転車」という文言がある。
これは標準スピードを歩く速度に設定しているということで、ゆっくり走ることを前提とした乗り物なのだ。

最初に感じるのは、低めのギア比、クランクの短さによって、クルクルとペダルが回ってくれる。
出足の軽さは見た目からは想像できないほどだ。

クランク長は127mmと、一般自転車の165mm、ショートクランクの152mmと比較してもさらに短い。

それに加え、ハンドルはステアリングダンパーでも付いているのかと錯覚するほどに安定している。
正直なところ、なぜこんなにハンドルが安定(直進方向に自動的に戻ろうとする)するのか最初はまったく分からなかった。

その不思議なハンドリングの秘密はやはりこの特徴的な前2輪にあった。
そもそも4輪車として安定させるのであれば、乗用車のように、フロントのトレッドを広げればよさそうなものである。
しかしこのクークルの前2輪の間隔は極端に狭い。
この設計の意味はハンドルを切ったときに判明する。

これはハンドルを右に切った状態である。
左側のタイヤはキャスター角の関係で浮き上がってしまい、地面と接地していない。

この状態のときに何が起きているかというと、左側のタイヤは重力に従い地面に落ちようとする力が働いている。
すなわちハンドルに対する自然の復元力である。

普通の2輪の自転車にもキャスター角とトレールの関係により走行中はハンドルをまっすぐに保つ力が働くが、低速時にはジャイロ効果を失い、傾いた車体に対しては「ハンドルの切れ込み」という現象を発生させる。
自転車は車体を傾けた方向にハンドルが切れる、また反対に、ハンドルを切った方向に車体が傾くという性質があり、これが「曲がりやすさ」であると同時に「転びやすさ」でもあるのだ。

クークルの前2輪は、いかなる速度域でもステアリングをまっすぐにしようと力が働くのと同時に、後ろの2輪により車体は傾かないように支えられている。
この2つの特性により、通常の3輪車よりもさらに安定するのである。

これがクークルが倒れにくいと言われる所以だとして、もし倒しこんだらどうなるのか?
フィクションサイクル店長はここのところのDH、ロードレースともにすべて転倒するという不運続き。
借り物のクークルを壊すわけにはいかないので、慎重にテストライドを行った。

平地ではどんなにケイデンスを上げても速度が伸びないため、下り坂を攻める。
まず速度にして25km/hほど。
さきほどまでの優しい乗り味は一変し、レーシングカーとのような振動と強い横Gに耐えるようハンドルを押さえ込まなくてはどこかへ飛んでしまいそうになる。

そのまま30km/h近くまで速度を上げてタイトな左コーナーへ進入する。
身体を傾けるが、車体の向きは変わらない。
すでに前後ともに左側の車輪は浮き上がってしまっていて、フロントの右タイヤにジワジワと加重をかけて騙しだまし向きを変えていくのが精一杯だった。

唯一の救いは、前後ともにセットされたメカニカルディスクブレーキが良い仕事をしたことだろう。
低速では抜群の安定感を誇ったハンドリングは、高速域では豹変してなんとも落ち着きがない。
もし少しでも多めに切り込もうものなら、フロントは一瞬でブレイクしただろう。

ここでやってみて、ようやく冒頭にあった、禁止事項の内容が本当に危険であったことが証明された。

それでは次に登坂性能のチェックに移る。
ギア比が非常に低いため、軽い登り坂などはほぼ問題はなかった。
そこで激坂アタックを敢行する。

127mmという未体験のクランク長によりペダリングのタイミングがつかみにくい。
重心が後ろすぎてシッティングでは踏めず、また車体が振れないためダンシングも不可能。
立ち上がったとしても、想像以上にトップ長が短いため、上体が起きすぎてしまう。
仕方なく、カゴの上枠を持ってバランスを保つが、やはり127mmというクランクサイズに限界があり、わずか15メートルほどでドロップアウト。

加えて後ろ2輪ならではの問題点としてトラクション抜けがある。
このクークルは現存する3輪車や4輪車の中では、かなりレベルの高い駆動レイアウトを持っていると言っていい。
真ん中に見えるのがこの機種のセールスポイントでもあるデファレンシャルギヤだ。
採用するのは「SAMAGAGA」の「DG72N」という製品。
メーカーHPによれば、用途は三輪自転車、電動三輪車、電動アシスト三輪車とのことなので、耐久性などは折り紙つきだろう。

SAMAGAGAはマレーシアの地名ではあるが、こちらの販売は「U-MOUTHエンタープライズ株式会社」という台湾の会社のようだ。
http://www.samagaga.com/

ただし、デフと言っても普通のオープンデフなので、トラクションが抜けたり、浮き上がったほうの車輪が空転してしまうという問題は解決できていない。
それでも国内メーカーの三輪車がいまだに片輪駆動ということを思えば、上出来だろう。

スイング機構がないためシンプルな後姿。

ブリヂストンワゴンのリアビュー。
スイング用のスプリングが見える。
ブレーキは左右にあるものの、駆動は左側のみ。

パナソニックかろやかライフEBのリアビュー
スイング機構が大きく見えづらいが、ブリヂストンワゴンとほぼ同様の構造。
こちらは内装3段の変速ユニットを搭載している。

クークルの足回りがなぜこんなにシンプルかと言えば、やはりアルミ製のワンピースホイールのお陰だろう。
まずスポークホイールにこだわっていたのなら、前2輪も難しいし、リア周りも片持ちではなく、両持ちだったかもしれない。
思い切ったオリジナルホイールだからこそ、普通の自転車メーカーとは違う切り口の商品になったのだろう。
たとえばブリヂストンが、リム、ハブ、スポークを組立て、ローラーブレーキをセットしてかなりの手間ひまをかけているのに対し、クークルは出来合いのホイールにディスクローター付けてシャフトにネジで留めているだけである。
当然、後者のほうがトラブルは少ないはずだ。

前輪の間に挟まったコンパクトなディスクブレーキは性動力も十分だ。

驚くほど快適なシート。
よく乗り心地を良くするために、クッション性の高いサドルを選ぶ人がいるが、あれはあまり得策とは言えない。
荷重を分散させるのがもっとも効果的だが、まさにこのシートの座面の広さはその役目を果たすだろう。
それと背もたれというものの存在は、これほどまでに安心感を与えるのかと、正直驚かされた。
ビジュアルは別として、この乗り味が広く知られれば、背もたれはもっと普及するだろう。

フレーム素材はアルミ。
詳しい情報は分からないが、綺麗な作りとなっている。
確証はないが、やはり台湾あたりだろうか。



試乗してみて思ったのは、はやりこの商品がよく考えられ、熟成しているということだった。
装備もシンプルでありながら、基本はしっかりと押さえているのは他のメーカーにも見習ってもらいたいところだ。
特に車体の設計ポテンシャルが高く、それだけで付加価値という希少な自転車だったと思う。
電動アシストが体に染み付いている店長は、これでバッテリーとモーターを積んでれば文句なしと言いたい。



ちなみにこの10万円という価格が高いか安いかといえば、個人的には「妥当」と判断する。
この自転車の素晴らしいところは、無理なコストダウンの形跡(某Bさんのような)が見られないこと、他に代替になる商品が存在しないことである。
なんでも安く安くという現代の風潮にあって、価値あるものを見合った価格で販売するといのは、実に自転車屋冥利に尽きる瞬間だ。

1 件のコメント:

人気のトピックス(全期間)

/*追跡スクロール2*/