2015年8月4日

アルミニップルはどう違うのか?

フィクションサイクルのお店に良く遊びに来てくれる若いロード乗りの子が以前話してくれたのだが、フィクションサイクルの過去の記事にあった店長の独特の言い回しが仲間内でウケていたと言うのだ。
それを踏まえて今回はアルミニップルについて書きたい。

アルミニップルの最大のメリットは何と言ってもその軽さだ。
ブラスニップルに対して約1/3ほどの重量しかなく、さらにホイールの外周部分の軽量化に貢献する美味しいパーツである。

アルミニップルは各社から販売されており、種類が様々あるので迷ってしまうかもしれない。
しかし、“もう先に答え言っちゃうけど”、「DT Swiss」の一択だよね。


まず写真で見てもらいたいのだが、ニップルの当たり面の精度がどのメーカーの高いのが分かるだろう。
左から順番に、DT、ホイールスミス、ホシ、CNスポークだ。
サピムは手元にブラスしかなかったので今回は触れない。

スポークレンチ(ニップル回し)の当たり面を見てもらいたいのだが、DTはしっかり角が見えるのに対して、他のメーカーは輪郭がはっきりしていない。
DTの次点で健闘しているのが、台湾のCNスポークだろう。
さらに拡大してもこの通りだ。

個体差が少なく、品質が安定しているのもDTの特筆すべき点である。


アルミニップルが世間で弱いと言われる理由は?

DT一択というのは、もちろんフィクションサイクル店長個人の意見ではあるが、当店では特別に指定がない場合限り、これを使用している。
シルバーばかり使っているのは、アルマイト剥げのリスクがないこともあるが、カラーニップルの価格が他社に比べ桁違いに高価なため、販売におけるコスト面を考慮しての事である。

これはスポークテンションを限界値に近い1600N(160kgf)まで張り上げたニップルの拡大写真だが、ご覧の通りアルミながら角をナメる素振りすら無い。
ここまでテンションを高く張ると、他社のアルミニップルでは変形を起こし、ニップル回しが抜けなくなるという不具合が発生する。
作業効率が著しく悪化するだけでなく、引っ張り抜いた反動でブラックスポークの塗膜を剥がすことにも繋がるし、何も良いことは無い。

一番右のホシの赤いアルミニップルを見てもらいたい。
ニップルのネジ穴がセンターから上にズレているのが分かると思うが、これでは変形に強いはずがない。


よく「アルミニップルは飛びやすい」、「アルミだからテンションは上げられない」といった意見を聞くが、自分はそのように感じたことはない。
あるとすれば、ニップルが良くないか、スポークが短いか、正しい工具を使っていないからだろう。

「さすがにダウンヒルは無理」といった通説もあるが、先日フィクションサイクルで整備にあたった一昔前のワールドカップマシンにはロゴこそ無いものの、DTのアルミニップルが使われていたことを付け加えておこう。
このバイクはとある有名な某海外ワークスで仕上げられたものであり、もちろん世界戦で入賞も果たしているが、ニップルに破断を起こしそうなダメージは皆無だった。
「ダウンヒルには耐えられない」という概念を払拭する一枚だ。
大人の事情によりこれ以上はお見せできない。


そのスポーク長は本当に適正か?

スポークが短いとはどういうことか、次の写真で分かるだろう。
ちょうど良い比較が海外のサイトにあったので紹介させてもらおう。
別の資料によればこのニップルはDTのブラスとの事。
転載元:sheldonbrown.com

アルミニップルは強度的には問題ないものの、取り扱いが難しいというのは間違いないだろう。
強度的に問題ないと言ったのは、ちゃんと設計通りに使った場合であって、精度の低いニップル回しを使用したり、スポークの先端がニップルのアタマの部分まで届いていない場合などは、あっけなくダメになってしまうのだ。

別の海外サイトにおいても、このネジの噛み合い量をパーセンテージで捉えているものがあったのでこちらもアドレスを載せておく。
これはすべてのネジが噛み合っている100%の状態との説明
転載元:kstoerz.com


ブラスニップルであれば、スポークとのネジ勘合部分が短くても、なんとかなってしまっている場合が多い。
スポークの長さが短く、ネジ山が見えてしまうのを隠すためにロングニップルを使用することも、ケースとしてはあるだろう。
もしこれをアルミニップルでやってしまうと、スポークにかかる強烈なテンションがそのままアルミニップルのアタマに直撃し、引きちぎれる要因となるのだ。

これを図で見るとこうなる
スポーク→ニップル→ニップルアタマ→リム
これがアタマが飛んで(千切れて)しまう要因となる
(ちなみにこのカットサンプルのニップルのネジ穴もセンターから酷くズレてしまっているが、先ほどとは別の個体のホシニップルである)

もしニップルのネジ山すべてを使ったとすると

スポーク→(スポーク+ニップル+ニップルアタマ)→リム
このようにスポークをニップル内に完全に貫通させれば、ニップルにかかる応力は分散される


極端な例だが、右はスポークを貫通させた状態。
左はニップルの中間でスポークが切れている状態だとする。
上下から引っ張りの力をかけた場合、左側のアルミニップルは引っ張り力に耐えられず破断するのが予想できるだろう。
※ホワイトボード芸は意図したパクリではありません。たまたまです。


アルミニップルを使用する時はスポークを長めにする

折れたニップルは捨ててしまって手元にないため、ネットよりいくつか画像を借りてきた。
転載元:mrbill.homeip.net
転載元:nuxx.net

どうだろうか、もちろん断定はできないが、もしスポークがニップルを完全貫通していれば、アタマのネジ山が無傷で残っているという可能性は少ないだろう。
応力がかかる部分はこんな感じ(赤い線部分)かと推測してみた。
この推測が正しければ、ニップルが破損した時に何かしらクラックの入り方に違いが出るハズだ。

ニップルの溝下を規準と考えるのは正しい定説なのか?


一般的に、リムのERDを測定するときは、ニップルのマイナス溝下までしか考えられていない。
これはシングルウォール時代の名残りなのだとは思うが、ダブルウォールが標準の今、スポークの飛び出しにそこまで神経質になる必要もないはずだ。
アルミニップルを使うときは、この部分の1mm+1mmをERDの数値に足してあげる(もしくはスポーク長を1mm~2mm長くする)のが良いだろう。

注意事項として、強度的な問題は無いにしろやはりブラスニップルには劣る。
取り扱いには注意が必要なため、初心者の始めてのリム組みチャレンジなどにはアルミニップルは避けるべきである。
またニップル回しは3面タイプではなく、4面(3.5面)タイプを使用しよう。

【おまけ】世の中にはスポークがニップルの頭から飛び出すと困る人々がいるお話


忙しい人は2分目くらいから見て欲しい。
自動リム組みマシンはニップルのアタマの溝を回してネジを締めるため、スポークがニップルのマイナス溝を超えた場合は対応できなくなってしまうのだ。

対策としては、内ネジでなく、外に山を持ったニップルを使えば良さそうなものだが、おそらくコスト面と必要性の低さからすべてがこれに置き換えられることは当面ないだろう。
これはRADというメーカーのオートバイ用ニップル。
ニップルのアタマが6角になっている。


こちらは「MACH 1」というホイールビルディングマシンの進化の歴史が分かる貴重な動画だ。
すべて機械化されているように見えるが、実は一番最初にハブのフランジにスポークを通すのはベテランの手作業となっている。
これはかつて日本国内でも大量生産が行われており、ブリヂストンの上尾工場にも、このスポーク通しが神業のように速いオバちゃんがいたのだが、今でも国内にホイールの組立ラインが存在しているのかは残念ながら知らない。


※フィクションサイクルは架空の自転車店です。この理論はただの思いつきを会社の休み時間に会議室のホワイトボードを使って書いたものであり、具体的な確証はありません。

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