2015年8月7日

ICAN 「50Cカーボンホイール」実走インプレッション

世の中に50mmハイトのカーボンホイールはどのくらいの種類があるだろうか。
DURAのC50、MAVICのコスミック、フルクラムのレーシングスピード、そしてカンパのボーラ・・・
数えだしたらキリが無いほどのホイールが存在する、まさにディープリムの王道、50mmハイトカテゴリーである。

その中でも今回インプレを行うのは、いわゆる中華カーボンと揶揄される中国ブランドの中国製ホイール、ICANの「50C」だ。
なぜこの正体不明のホイールのインプレに挑むのかと疑問に思うかもしれないが、今や中国のカーボン製造の技術レベルは非常に高く成長しており、たかが中国製と甘く見てはいられなくなって来たからだ。

フィクションサイクルでは、この格安中国製ホイールがどの程度のものなのか確かめるため、わざわざ現地からホイールを取り寄せてみた。


まず、インプレの前に詳細を説明するが、事前にホイールの組み直しとテンションなどの調整を行っており、現地で組まれた状態ではない。
さらに各パーツの重量などは事前に測定してあるので、そちらを見て欲しい。

ICAN 50mmハイトカーボンクリンチャー 50Cの身体測定
http://fiction-cycles.blogspot.jp/2015/08/ican-50c-weigth.html


今回の試乗は時間の都合により、現役選手の起用ができなかったため、フィクションサイクル店長の対談相手として、サイクリストの池原氏に登場してもらった。

ICAN 「50Cカーボンホイール」実走インプレッション

サイクリスト池原(以下:池)
「さて、今回はまだ日本にほとんど入荷していないICANのホイールの試乗ということですが、このホイールはなんと現地レートで390ドルとフルカーボンクリンチャーとしてはかなり安い部類なんじゃないでしょうか?正直な感想をお聞かせください。」

フィクションサイクル店長(以下:店)
「行きます」

池:「お願いします」

店:6点

池:「は?何がですか?」

店:「総評」

池:「いきなり起承転結の“結”から来るとは、本当にやる気あるんですか?(笑)」

店:「いやいや、自分としては結構悩んで出した点数なんだけどね。性能と価格のバランスで言ったらもっと高い点数をあげてもいい、けどホイールの純粋な性能を見たときにはそこまで高くは評価できなかったから、とりあえず指標として点数を出しておこうかと。もちろん10点満点ね」

確実に体感できるエアロ効果

池:「では、価格のことは抜きで行きましょう。50mmハイトのカーボンクリンチャーとして見た場合はどうですか?」

店:「今回の試乗コースは広めの海岸線と丘陵地の複合だったんで、それなりにデータは取れていると思うけど、まず重量を除けば一般的なレース機材と空力的には変わらないと思う。ディープだけあって例えば平地で35km/h巡航からジワジワと45km/hまで速度を引っ張り上げた時とかは良いよ。メーター見たら思ったより2~3km/hは速度が高いイメージ」

池:「このホイールは前後セットで約1620gなんですが、その違いはやはり感じるということですね」

店:「これはホイール全体というよりリムの重さかな。これ計ったらリムで約510gくらいあるんだけど、自分がいつも使うホイールって大体リム重量400g前後のものが多いから、加速時に“回してる”って感触が強く出るね。スル~じゃなくてグリ~って」

池:「一度回したら慣性で回ってくれるイメージでいいですかね?」

店:「うーん、そこは微妙。ちょっと速度落ちも早い気がしたけど、よく分からなかった。たぶん反応の鈍さは重さもあるけど、駆動方向への剛性不足なのかもしれないね。」

剛性と乗り心地のバランスが微妙

池:「ホイール全体の剛性バランスについてはどうですか?」

店:「今回は結構テンション高めに設定してるからね、サクサクパリパリ・・・かと思ったけど縦には硬いけど横にはちょっと弱かったかもしれない。ハイトの高いホイールってリム自体が高剛性だからホイール自体も硬くなるんだけど、横にはいくらテンションを高くしても下からの突き上げがキツくなるばっかりで、肝心の横剛性は上がりにくい」

池:「それは他のカーボンディープリムにも見られる傾向かとは思いますが、このホイール特有の話ですか?」

店:「正直言うと、フルカーボンディープでクリンチャーってあんまり経験がないから比較対象が少なくて申し訳ないんだけど、たとえばコスミックカーボンとかZIPP404とかのクリンチャーとかを出してくると、やっぱりICAN50Cは縦の硬さに対して横のシナリが大きいかな。高速コーナーにバイクを思いっきり倒して進入したら、リアホイールがグワーンってたわんで、グリップがちょこちょこ逃げてるのが分かるから次の振り返しとかでちょっと躊躇う」

池:「乗り心地についても教えてください」

店:「そんなに良くない。アルミリム、アルミスポークの完組みホイールのほうが断然いいレベルだね。綺麗な路面なら問題ないけど、荒れたら顕著に出る。細かい段差に乗る度に下から木槌でコンコンされてる気分でちょっと疲れる。特にカーボン特有の音の反響で余計にね。スポーク本数を増やして1本あたりのテンション下げたらかなり改善しそうだけど」

池:「今の流行はF/20H、R/24Hですからね、見た目のバランスとか軽さとか、まあその辺の兼ね合いもあるのかと思います。ちなみにコースは海沿いでいい感じで風が吹いていましたが、横風の影響は結構あったんじゃないですか?」

店:「ここの受け止め方は個人差が大きいから特には言わないけど、まあいつも使ってる35mmハイトよりは少し煽られるよね。けど実用の範囲で問題ないよ。自分はコリフォーとギブリ履いて街道練習行ってたくらいだからね(笑)その経験からいうと40mmまでは普通、50mmでちょっと注意、60mmより上は風が吹いたら家に帰る、ってイメージかな。

バサルト加工による良好なブレーキフィーリング

池:「このICANのカーボンリムはブレーキサイドにバサルトファイバーという繊維が貼り付けてあって、ブレーキフィーリングの向上や耐熱性能も高くなっているとの事ですが、実際のブレーキングに違いは感じられましたか?」

店:「これけっこう良いよ。ただのカーボンサイドだとちょっと不安があったけど、これは良く止まってくれる。アルミサイドとの比較で言ったら80%くらいかな。実は某社のホイールで『ノーマルシューが使えます』って謳い文句の商品で、言われたとおりノーマルのブレーキシュー使ってたらリムサイドが剥離してしまったものを見たことあるんだけど、あれはやっぱり熱の影響だと思う」

池:「さっき見てましたけど、店長ノーマルシューでダウンヒルしてませんでしたか?」

店:「うん、とりあえず実験してみたけど、2kmほど下ったところでシューがヤバいことになりはじめたね。あのままあと1km下ったらたぶんシューのゴムが溶けてリムにがドロドロになってたと思う」

池:「アホですね」

店:「使ったのは普通のシマノのシューでR55C4なんだけど、やっぱりさすがに無理だった(笑)発熱の問題のほかに、ブレーキフィーリングがあまりにピーキーすぎて、パニックブレーキしたら一発で完全ロックするほどだった。けどカーボンのブレーキング特有のピューって音は好き」

池:「附属のカーボンリム専用シューですが性能的にはどんな感じですか?」
店:「シューには『CHAMPION BRAKING POWER GB-336』って書いてあって、どこのものかは分からないけど、これはかなり良かった。発熱も抑えられてたし、十分使えると思う。

池:「雨のコンディションでも問題ない?ちなみにここ数日ずっと晴れなのでどうテストするのかと思いましたけど、まさかあんなことをするとは・・・。」

店:「レインコンディションを想定しての再現検証だから、完璧なテストとは言えないけど、50mの下り坂に十分な量の水を撒いて、なおかつホイールにずっと水を掛け続けながら走ったんだからいいでしょ?(笑)」

池:「水道代どうなっても知りませんよ?お向かいのクリーニング屋さんが、あら打ち水いいわねーって言ってましたし・・・。それで結果は?」

店:「やっぱり止まらないね。感触としては雨の日のアルミリムサイドと比較して70%くらいかな。特にファーストタッチ直後から制動が始まるまでのタイムラグに最初は不安を感じるね。けど雨の日のカーボンホイールはこんなものだと思って割り切るしかない」
※このテストは別撮りです

これで390ドルは安すぎる?価格と性能のバランスは?

池:「今は円安傾向で国内でもシマノをはじめ次々と値上げが始まっていますけど、その中において390ドル(現在レート4万8千円)という価格は武器になるでしょうか?

店:「そこそこ走ってくれて、そしてこの見た目なら選択肢としては十分ありだね。けどもし本気で走りたいっていうならオススメはしない。安いっていっても約5万円するんだから、限定的なエアロ効果を無視すれば、アルミのロープロファイルホイールでも良いものが買えてしまうし、そっちのほうが万能に使えるからね」

池:「なるほど、それで最初の6点という点数になるんですか?ということはこの評価のライバルはかなり幅広い相手と比べてということになりますね」

店:「そうだね、このホイールの購入を検討する層ってさ、そこまで良いホイールは持ってなくて、ちょっと違うものにステップアップしようって人たちでしょ?カーボンでディープで安いってだけで期待して安易に手を出しては欲しくない。もちろんフィクションサイクルみたいに、商売でもなく、自分がメインで使うわけでもなく、ただテストしたいってだけで買うなら、このホイールは絶対にオススメだけどね」

池:「またまたー、そんなこと言ってこのままメインで使うつもりですよね?絶対(笑)

店:「だってカッコイイし、なんかもったいなくて(笑)




【おまけ】インプレコーナーの点数について

池:「最近のバイク雑誌って昔みたいに点数で評価することがなくなりましたよね?」

店:「まさに“大人の事情”ってやつじゃない?インプレするためにお願いしてメーカーとか代理店に機材貸してもらってさ、5点中2点とかだったら貸した側の顔に泥を塗るようなことになるし、そもそも売るために書いてるんだから正直に悪く書いても誰も得しないって話」

池:「懐古主義って訳じゃないですけど、90年代のサイスポとかって、けっこうシビアな点数ついてましたよね。あれはあれでユーザー目線では嬉しかった。もちろん当時は本当にどうしようもない商品とかがあって、今は全体的にクオリティが上がって酷評するほど悪いものが減ってるってのもあると思いますが」

店:「この前ね、ある人が言ってたんだけど、やっぱり辛口コメントは書きづらいって。商品レビューだけじゃなくて、例えば会社の業績とかも良い部分にしかスポットを当てないから、読んでる人に本当のことは伝わらない。だから○○○○耳とかいうコーナーを反動でやってるんだと思うけど(笑)

池:「うーん、ちょっと内容が具体的すぎて笑えなくなってきましたよ」

店:「どっちが正しいかは一概には言えないけどさ、どこを見ても当たり障りのない“ちょうちん記事”ばっかりなのはどうなのかな?って思うよ」

池:「それは輪界だけじゃなくて、例えば自動車雑誌なんかでも言われていることですね。広告主がいなければ雑誌は成り立たないって」

店:「バイク雑誌もそういう流れだね。昔にバイク雑誌に辛口インプレ書いてた人たちって今は見ないもん。反対に自分がスポンサー受けてたメーカーの自転車に満点付けちゃう人が今バリバリだしね」

池:「さて、よく分かりませんけど(笑)、そう言えばF社のロードバイクインプレで一人だけ高得点だった記憶ありますねぇ、けどちゃんと正直に『自分はここの自転車を悪く言うことは出来ない』って紙面で言ってましたけど、そこはさすがと思います」

店:「プロっていうのはそういうものだよね。その人が今やってるバイクブランドのカタログでうっかりC社のパーツアッセンしたらクレームがついて差し替えってね。昔の恩を忘れるなって意味もあるだろうけど、やっぱりスポンサー様を敵に回したら業界で食って行けなくなるってことだ」

池:「致命的な欠点を書いてしまったらインプレライダーたちも仕事を干されるんですね。思えば、『硬いけどしなやか』とか『重いけど重さを感じさせない』とか必ず文章にフォローが入ってますもんね。その点フィクションサイクルは気楽ですよね(笑)

店:「いや真面目な話、ここでも人から借りた機材とか、知り合いの誰かが所有しているものとか、やっぱりある程度は持ち上げないといけないって気持ちはある。だから今回のこのホイールは誰ももってないし、インプレを頼まれて借りたものでもないし、素直な感想で点数をつけてみたわけ」

池:「その結果が6点ですか。なるほど、微妙過ぎます(笑)」

店:「今のお客さんってネットのレビューとか重要視するでしょ?それは情報社会ってのもあるけど、一方で雑誌とかマスメディアがあんまり信用されなくなってきたからだと思う。だからこれからは信用できるネット上のレビューアが重宝されるんじゃないかな?自転車界においてもね」

池:「そこでフィクションサイクルの重要性アピールですか?」

店:「いや、うちは架空の飛ばし記事書いてるだけだもん(笑)信じちゃダメよ」


※思わせぶりではなく、本当にただの飛ばし記事です。

4 件のコメント:

  1. 初めまして。
    いつも楽しく記事を拝見しています。
    ICANのカーボンクリンチャーホイールを使用する際、リムテープはご利用になりましたか?
    よろしければ教えていただきたいです。

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  2. 毎度ご来店ありがとうございます。
    ICANのカーボンリムは全ての商品でニップル穴がありますのでリムテープは必須です。
    一般的なアルミリム用のリムテープでは幅が足りないことがありますので、広めのものをチョイスしてください。
    当店の定番商品はTIOGAリムテープです。
    今回は「TIOGA700-17mm」をインストールしています。

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  3. お返事ありがとうございます。
    私もICANのホイールを買ってみようと思います。

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  4. カーボンリムのクリンチャーは昔から鬼門って話聞きますね。ビードを引っ掛ける部分の強度がどうしてもネガになるって。このクラスになるとプロ同等の器材なんだから潔くチューブラーで組むべきだという考えも良くわかります。そこを承知で敢えてGOサインを出したICANは勇敢だとはおもいますが果たしてセールス的にどうなのかとも思いました。中華思想だとたぶんセールスが振るわなければ即カタログ落ちなんでしょうが日本のデフレ思想の購買層が結構支える気もするので侮れない。

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