2016年3月23日

2017年モデルは値下げもあり?円安不況のカラクリ

フィクションサイクルの耳にこんな情報が入ってきた。

2017年モデルは前倒しで値下げする。こんなに売れなくなるとは思わなかった

どこのメーカーの何の車種かとか、そんな野暮ったいネタばらしをするつもりはないが、やはり昨年からの円安影響による国内販売価格の一斉値上げの反動は、販売減少というカタチで各メーカーの懐具合にジャブのようにジワジワと効いてきているようだ。

値上げに関しては、原材料の高騰や、為替の影響といった大義名分を振りかざすくせに、値下げのこととなると声の小さくなる自転車業界。
しかし今回ばかりはそうも言っていられないご様子。

値上げして物が売れなくなる、というのは自転車に限らずどこの業界でもあることだ。
その中でも、ほぼ100%近くを海外からの輸入に頼るスポーツ自転車は、外部要因による価格変動に弱い。
さらに、もともと業界が薄利なので、市場価格を調整するキャパシティに乏しく、仕入れ価格の高騰はダイレクトに市場価格へと反映しなければならないのだ。

だから単純に値上がりして消費者が離れて売れなくなったのだが、ではどのくらい自転車を取り巻く経済環境が変わったかといえば次を見て欲しい。

※今回の内容はフィクションを多く含んだ創作話ですのでご注意ください。
※当店は実在する自転車店ではないため、正確な情報は入手できません。

為替レートの変動が自転車の価格に及ぼす影響


2012年には1ドル70円台だった為替レートが、2013年には80円台を一気に通り越して100円台まで円安が進んだ。
さらに翌年の2014年の年末には1ドル120円を突破、2015年には最高で125円のドル高値を記録している。

さらに消費税の問題もある。

2014年に従来の5%から8%へと、17年ぶりに引き上げられた消費税。
これらは当然、販売価格に上乗せされる。

これをトータルして、実際の商品で想定するとこうなる。(クリックで拡大)
※為替レートは年間の平均値、2016年については当初の予想値である130円で設定
※メーカー=自転車ブランドの輸入代理店という意味

まあ細かい部分のツッコミどころは多いとして、店頭売価14,800円(税込)だった自転車が今いくらかという試算だ。
そんな安い自転車興味ないという人は、カーボンのハンドルバーに置き換えてもらっても構わない。
結果はおよそ20,000円超え。
3%しか上がっていないハズの消費税も、実際には従来の倍額以上に課せられている。

このグラフでは、販売店や輸入代理店を悪者にしないように、マージンはちゃんと一定にして計算してみた。
純粋に為替と消費税、それと物流コスト高騰などの諸経費の調整差によって、どれだけ価格が上昇したかという点に焦点を絞っている。

グラフの一番下の赤い部分はずっと100ドルのまま固定し、それを当時の為替レートで「円」に変換したものだ。

2012年までは100ドル7,980円だった。
それが2015年では100ドル12,100円になっている。

このグラフで見えてくるもの。
それは値上げ値上げと連呼しながら、誰も儲けるための値上げを意図した覚えは無いということだ。
むしろ利益を率ではなく金額で固定しているため、販売店の利益率は値上げと逆行して下がっている。
反対に利益率を維持しては販売減少が目に見えている。
そこで、必死の経営努力で販売価格の上昇を食い止めようというわけだ。

もしかしたら上のグラフを見て、あれ3000円もマージン中抜きするの?と思われるかもしれない。
たまにカン違いされたお客様が、「俺がこんな高いパーツを買ってやるからこの店がやっていけるんだぞ、だからボッタくるな、もっと安くしろ」と横暴なことを言ってくることもあるだろう。

別に自転車店の店主はこの3000円をポッケに入れて豪遊しに行くわけではない。
この貴重な利益から家賃を払い、従業員に給料を渡し、そしてわずかに残ったお金は次の仕入れの資金に回すのだ。

自分の取り分などほとんど無いに等しい上、さらに仕入れ単価は跳ね上がっている。

これが何を意味するかと言えば、「物価は高くなったが、給料は変わらない」という現代日本の縮図そのものである。

2017年モデルが前倒しで値下げされる可能性

2015年の春以降、2016年モデルの商品価格立てについて、代理店の担当者はさぞかしアタマを悩ませたことだろう。
フィクションサイクルが当時それぞれにヒアリングを行った結果では、
実質10%本音は20%という値上げ想定の回答が多かった。

それは当時の為替レートでまだ円安が進行する兆候があり、みんな130円台突入を恐れていたからだ。

しかし2016年に入ってみれば、円安傾向は一気に円高へと反転、株式市場も落胆と混乱の中、またネガティブな話題が聞かれるようになってきた。

この大混乱に一筋の光明を見出したのが輸入代理店の方々だ。

このまま1ドル112円前後で推移するのであれば、2015年よりも価格設定を下げられる。
落ち込んだ消費の復活もありえると踏んだのだろう。

仮に2016年を125円、2017年を115円のレートで試算すると
上代設定価格では10%弱の値下げが可能となる。
おそらく大幅なモデルチェンジなしで、「継続商品を10%ダウンで価格提示」というのが今のところのフィクションサイクルの読みだ。

ただ、これを実行に移せるのは、ある程度ギャンブルに失敗しても生き残れる資本力のある代理店に限られる。
弱小のディストリビューターがこの賭けに失敗し、また強烈な円安にでも振れようものなら、責任者の胃に穴が開くこと間違い。

また2017年モデルの前倒し導入についてだが、これもシビアな問題で、早く在庫を掃ききって、市場競争力の高い新モデルを投入したいというのは、遠めに見てても予想できるが、そもそもストックした在庫はどうするのか?また本国との調整は上手くいくのかなど、課題もありそうだ。

こちらとしてはあまり実感はないが、やはり全体としてスポーツバイク市場はそれほどまにで停滞しているのだろう。
確かにエントリーモデルのロードレーサーは良く売れているが、中堅グレードから上が動いていない気もする。

そもそも10%程度の値下げで市況を回復できるかどうかも疑わしいところではあるが、輸入商品である以上、打てる手など限られている。
だから本当にプライスダウンが行われるかは分からないが、可能性としては十分に想定できる範囲の話なのだ。

業界で噂される「一大首切り劇」は現実のモノとなるのか?

ちょっと不確定要素が多い話なので、イニシャルトークにしたいと思う。
先日社長交代のアナウンスがあった国内自転車メーカー大手のB社。
取締役会での人事決定を見れば、社長の他にも本体から非常勤役員が3名も降ってきている。

それは珍しいことでもないのだが、気になるのはその時期だ。
前任のS氏が代表取締役社長に就任したのが2015年1月1日。
そして退任は2016年3月11日とわずかに1年2ヶ月間という短命であった。

いったいB社に何があったのか?
埼玉県某市本社での生産を拡張した伝統の金型生産シリーズは中国C州で生産するラグフレームより収益性が向上したと聞いたし、温厚で人当たりの良いS氏の人間性に問題があったとも思えない。

正直、業界ゴシップの真実にたどり着けるほどの情報収集能力があるわけでもないし、自分はそんな身分でもないのだが、普通に考えて会社の幹部連中が刷新される理由なんてものは、そういくつも無い。
概ね業績に関する何かがあったと見られるのが世間の常である。

さらに、S元社長が相談役に就任すると同時に、名簿から名前の消えた輪界の大物W氏。
いったい密室でどのようなやりとりがあったのか、ただの一自転車店店主が知る由も無いが、もしかしたら「半沢直樹」もビックリな人間ドラマがあったのかもしれない。

また輸入代理店においても似たような話があり、2010年に発生した訴訟問題にて1億5000万円の賠償命令が下されたことで業界を震撼させることとなった、あの人気ブランドBの輸入販売を行っているC社。
すでにこちらの会社においてもトップ交代の情報を掴んでいる。

実はフィクションサイクルが聞いたところによると、今回の首切り劇の被害者はさらに増える見込みで、リストアップされただけでも10名近くに上る。

この同時期の人事交代に深い意味があるのか、それとも退任の時期が偶然にも重なってしまっただけなのか。
その真相が明らかになるのは、もっと時間が経ってからになるだろう。

※内容はフィクションであり実在する企業とはまったく関係がありません


「義命の存する所」から「時運の赴くところ」に

夏も半ばを過ぎると、テレビなどでその一部が流れる「終戦の詔書

「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び・・・」という部分だけが切り取られているために、その全文の意味を知る人間は少ない。

さらに、その原文ですら本来の意味から改変されていようとは、よっぽどの現代史好きでなければ思いもよらないことであろう。

義命」とはそもそも何なのか?
終戦の詔書から削がれてしまったその理由も、その言葉の意味があまりに難しかったためだ。

8月15日は終戦記念日でしたが、その終戦の詔勅に、「時運ノ趨(おもむ)ク所堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ萬世ノ為ニ太平ヲ開カムト欲ス」と在ります。この文面に関しては逸話があり、安岡正篤氏が刪修に当たられたそうですが、本来は「義命の存する所・・・」とすべきところ解り難いという事で「時運の趨く所」と時の内閣に変えられてしまったと、密かに嘆くように述懐されています。この出典は中国の古典『春秋左氏伝』で、成公八年の条に「信以て義を行い、義以て命を成す」とあり、「厳粛な大義名分の意味を持ち、国の命運は義によって造られて行かねばならない。その義は列国との交誼においても、国民との治政においても信でなければならず、その道義の至上命令の示す所によって終戦の道を選ぶのである。」と遺されています。
http://www.awapaper.co.jp/magazine/detail/20130827.html
阿波製紙という会社のHPにはこのように要約されていたので引用させてもらった。

企業の社長というものは、本来は「厳粛なる大義名分」によって行動するのがあるべき姿なのだろうが、現代社会においては、「時運の赴くところ」に翻弄され、ただの首の挿げ替え要員になってしまっている節がある。

今回の円安不況についても、別にこれといって彼ら経営者に特別な非があるわけでは無い。
ただ、タイミングが悪かったのだ。
いうなればアベノミクスの被害者と言ったところかもしれない。

そう言い切ってしまえば、それまでだが、果たして本当にそれでいいのだろうか?

自転車メーカーや輸入代理店の経営者というのは、利益を上げて会社を存続させることが最大の使命だ。
資本主義社会ではとても当たり前のことに聞こえるこの言葉も、別視点で冷静に考えれば可笑しくも感じる。

「利益を上げて会社を存続させる」というのを名分だとするのは、とても“”儀には思えない。

それよりも順番を入れ替えて
大義名分の元に事業を展開し、結果として会社が存続する」と言ったほうがシックリくる。

果たして今回の首切り劇の登場人物たちに、いや、これまでの自転車界をリードしてきた歴代の経営者たちを含めて、いったいどれほどの「義命」があったのだろうか?

「事業を守る」というのは確かに重要なことではあるが、そろそろ日本輪界浮上のためにも、誰かが「攻め」に出なければならない。

かつて「攻め側」だった日本企業のその後


1985年のプラザ合意を過ぎた辺りまで、確かに日本の自転車界は熱かった。
誰もが、世界を相手に戦おうという気負いに満ちていたように感じるし、それを後押しできる為替環境もあったのだ。
もしこの後の為替レートの変動がもっと緩やかであれば、日本の自転車製造業はもう少しは生き延びることができていたかもしれない。

1986年のプラザ合意は世界の自転車生産の地図を塗り替える、キッカケになった。日本の自転車産業・特に完成車の輸出は大幅に減少して、台湾が自転車輸出大国に成長、マウンテンバイクブームも到来して、自転車フレームの製法もTIGに変貌した。
既存のメーカーの商品では物足りず、しかし、日本の商社のブランドではなく、アメリカでの企画、プロモーションと販売、台湾での生産を組み合わせた新興勢力のブランドが北米で成長した。
その時、日本の完成車メーカーの目標「世界に通用する自転車を作る=ツールで勝つ!」は消えた。唯一シマノだけがその目標に向かっていた。

コラム 大家「悪魔に魂を売る」 (シルクダイアリーより再録)
http://www.silkcycle.com/history/silkhistory.html
シルクといえば片倉シルク。
その片倉自転車はとうの昔に倒産してしまっている。
だが、たったひとりの人間の情熱だけで「シルク」ブランドはまだ生存しているのだ。
この上記のコラムを書いているのはおそらく代表のA氏。
そして文中に登場する「大家TOM氏」とはランドギア・インターサイクルを立ち上げた沼さんのことだろう。

この人はもう現場から去ってしまったので、イニシャルではなく実名を書いてしまったが、最後にお会いしたのはもう10年以上前になるだろうか。
ランドギア撤退による在庫処分と挨拶回りを兼ねて各自転車店を訪問された時のことだ。

その後「LAND GEAR」ブランドは株式会社オオトモによって一時販売されていたが、それも過去になり、現在では販売が終了してしまった。

ネット上で検索すればオオトモの復刻版ランドギアは「パチモンロード」呼ばわりされているのが悲しいが、事実として、貴重な日本発の自転車ブランドはその短い生涯にひっそりと幕を下ろしたのだ。

沼さんが理想を掲げて立ち上げたランドギアも、時運の赴きとともに消えてしまった。

http://xedapcacloai.vn/xe-dap-mtb-land-grear_i1183_c138.aspx

LGは忘却の彼方へ葬り去られたようで、ネット上でも写真がほとんど残っていない。
見つかったのはやはりベトナムの中古自転車店だった。

関連情報
今ベトナムで日本の中古電動アシスト自転車が熱い
http://fiction-cycles.blogspot.jp/2015/10/from-hanoi-in-vietnam.html

義を貫き攻める姿勢が必要とは言ってみたものの、やはり事業の存続というのは最低限の土台であり、トップ陣にその責務が与えられるのは、当然のことなのだろう。
ただ、どちらを優先すべきなのかは自分には分からない。
少なくとも、熱意を持った自転車好きが真っ当な自転車の仕事で飯を食えるようになるのが理想なのではあるが。

これから難局を迎える日本の自転車販売業はどのようになって行くのか。
今後の有能なリーダーたちに期待したい。

先日、MTB界のある重鎮がTwitterでこんなことを言っていたのが目に留まった。
やはり重要なのは「人」であることに間違いないようだ。

※上記Twitterはただの引用であり、今回の内容とは何の関係もありません

沼勉氏が関連する書籍


3 件のコメント:

  1. 弱ペダ特需がなくなって、平常に戻ったとの声も聞かれます

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  2. そもそもスポーツ自転車高過ぎです。
    アメリカの2ndバイシクルのように中古を流通させてリサイクル・リユース環境を整備し直し貧困層に無料提供する事で貧困層も救う社会貢献型モデルに転換して頂きたいです。
    災害に強い自転車で運べるオフグリッドのタイニーハウス等も普及して欲しいと思います。
    また公道を走る日本のスポーツ自転車にはドイツのようにスポーツ自転車にハブダイナモやソーラライト等電池切れの心配のない保安用ライトが日本のスポーツ自転車に標準装備されていないところが安全性が劣るので対策お願いします。
    後自転車は人力なのでガソリンなど化石燃料を使う自動車より環境に良い事を活かしてタンデム自転車・ソーラーベロタクシー規制緩和や自転車道の整備でデンマークやオランダ並みの自転車環境整備をお願いします。
    オランダは自動車から自転車への転換で石油危機を乗り越えアイスランドは火山温泉を活かした地熱発電で石油危機を乗り越えました。

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  3. 中々面白いブログですね、しばらく隅々まで読ませていただきますが、一々、弱気な注釈が多いですね。
    業界の古い方なんでしょうけどそんなに恐れることは無いんじゃないでしょうか?
    判る方は判っているんだと思いますし。(笑)

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