2016年3月13日

ヤマハ発動機株式会社における「PAS」の立ち位置

フィクションサイクルの手元に第81期定時株主総会の招集通知がやってきた。
ヤマハ発動機といえば、今後の四輪事業への参入も期待される、輸送機器ジャンルの「何でも屋」的存在である。
そして何より、電動アシスト自転車のパイオニアであり、自転車屋としてもっとも気になってしまうのは、やはりヤマハ発動機内でのPASの立ち位置だ。

送付された株主総会参考書類に目を通すと、まずPASという単語がほとんど登場しないことに気が付く。

それもそのはずで、ヤマハ発動機全体の2015年度(1~12月)の売上高は1兆6150億円ほど。
その中で電動アシスト自転車事業が割り当てられる「その他の事業」は合計でも、およそ850億円と、巨大企業の様々な事業から見れば、その占める割合は5%ほどしかない。

しかも「その他の事業」には自動車用のエンジンや、産業用ヘリコプターも属しており、純粋なヤマハPAS関連の国内販売だけに絞れば、おそらく売上高は200億円を下回ると見られる。

事業全体の2%にも満たない事業は、株主の関心も低いというのが本音だろう。

ヤマハ発動機株式会社の各事業区分に属する主要な製品

【二輪車事業】 (62.9%)
二輪車、中間部品、海外生産用部品

【マリン事業】 (18.8%)
船外機、ウォータービークル、ボート、プール、漁船・和船

【特機事業】 (10.0%)
四輪バギー、ROV、ゴルフカー、スノーモビル、発電機、除雪機、汎用エンジン

【産業用機械・ロボット事業】 (3.0%)
サーフェスマウンター、産業用ロボット、電動車いす

【その他の事業】 (5.3%)
自動車用エンジン、自動車用コンポ、電動アシスト自転車、産業用無人ヘリコプター

※カッコ内は売上高の構成比率

電動アシスト自転車の代名詞的存在である「PAS」をもってしても、その売上げ規模は中小企業の「中」くらいにしかならないのは寂しい気もするが、日本国内における自動二輪の販売は凋落の一途を辿っているため、タイヤ2本で走る乗り物部門としての期待度で言えば、「海外二輪→PAS→国内二輪」というような感じで、まだまだ規模は小さいものの、今後の成長が期待できる製品ジャンルではある。

PASに関連するヤマハ連結子会社たち

ヤマハの関連子会社は2016年現在で106社(国内22社、海外84社)もある。
実はヤマハPASと一言に言っても、製造や販売はそれぞれ別の子会社が受け持っている。

ちょうど電動アシスト自転車でライバル関係にあるパナソニックも、自転車の製造および販売はグループ会社である「パナソニックサイクルテック」が行っているのと似たような関係だ。

その中でも、電動アシスト自転車の心臓部であるユニットを担当しているのが、
ヤマハモーターエレクトロニクス株式会社』である。

製品紹介
http://www.yamaha-motor-elec.co.jp/products.html

この会社の名前に、あまり馴染みがない自転車屋さんが多いのではないだろうか?
そして、古くからPASを販売してきた店主は「森山のモーター」と呼ぶことがあるが、これにはおもしろい話がある。

ヤマハモーターエレクトロニクス株式会社は何度か名称の変更を行っている。
最初の会社名は「森山工業株式会社」であり、1973年に創業した同社は主に自動二輪向けの電装部品を製造していた。

そして2001年にはヤマハ発動機グループとしての位置づけを明確にし、社会的認知度を高めることを目的として、社名が『株式会社モリック』となった。
不思議なのは、社会的認知度を高める目的と説明する割には、まだ「森田」の面影を引きずる名称変更に留まったことだ。

さらに2007年になってから、その社名を現在の「ヤマハモーターエレクトロニクス株式会社」とすることで、ようやく誰から見てもヤマハの関連企業であることが一目瞭然となった。

・1973年 「森山工業株式会社」が創業
・2001年 「株式会社モリック」に社名を変更
・2007年 「ヤマハモーターエレクトロニクス株式会社」に社名を変更
http://global.yamaha-motor.com/jp/news/2001/0321/moric.html
http://global.yamaha-motor.com/jp/news/2007/0215/moric.html

このように、初期のPASには、ヤマハ直系でない企業が複数参加し、製品を構成することとなった。
もちろん、この他にも、フレームがブリヂストンサイクル、バッテリーは三洋電機と、各企業の持ちえる技術の集大成が電動アシスト自転車であり、「PAS」の誕生にはそれが欠かせなかったのだ。

余談だが、ヤマハのグループ企業である
ヤマハモーターアシスト株式会社』は電動アシスト自転車の「アシスト」というネーミングとはまったく関係ない人材派遣会社だ。

そして2006年に設立した「ヤマハ発動機販売株式会社」は、もとよりヤマハ発動機製品の二輪車関連の販売を目的に再編成されたものであるが、その時にYMSJ株式会社にすると言いながらも旧体制から商号変更を行っていない(実際には4ヶ月間だけYMSJ)。
それがヤマハWEBサイトの沿革に記載されたヤマハ発動機販売の設立時期に違和感を覚える理由である。

当社グループ内の会社分割及び吸収合併に関するお知らせ
http://global.yamaha-motor.com/jp/news/2006/0922/merger.html

二輪車を中心とする新しい国内販売体制について
http://global.yamaha-motor.com/jp/news/2006/1208/ymsj.html

実際のヤマハの全国販社統一によるヤマハ発動機販売設立は1998年である。
このように巨大企業ヤマハの中身はとても複雑なのだ。




ヤマハ発動機販売(株)の完全自立化と国内販売事業の強化
http://global.yamaha-motor.com/jp/news/2001/1019/japan.html

定時株主総会の招集通知からPASに関する記述を探す


全62ページの中で、わずかに3ヶ所だけ、PASに関する情報があった。

日本では電動アシスト自転車の需要は前年並みとなりました。

電動アシスト自転車は、新製品効果、新規顧客開拓により、国内・海外ともに販売台数が増加しました。
さっそく矛盾する説明にやや戸惑うが、これは解釈の問題だろう。

ヤマハらしい個性的な乗り物を創ることに挑戦します。
別には、「更に成長する個性的ビジネスモデル郡へ」とあり、抽象的ではあるものの、電動アシスト自転車はさらに活躍の場を広げると思わせる書き方だ。

個人的には、堅実な事業で、さらなる株価の上昇を期待している。

※収集した資料を元に情報作成していますので、すべてが正しいとは限りません

0 件のコメント:

コメントを投稿

人気のトピックス(全期間)

/*追跡スクロール2*/