2017年9月1日に発売が決定したパナソニックの電動アシストマウンテンバイク「XM1」
すでに海外市場では数年前からe-Bikeカテゴリーは大きな盛り上がりを見せていたが、ここ日本国内においては様々な理由があったにせよ、普及しないどころか販売さえされないといったスポーツ電動アシスト車に不遇ともいえる状況が続いていた。
なぜこの国は電動アシスト自転車発祥の地でありながら、それが普及しないのか?という問にはやれ法規制がとか、やれ国民性がとか、一部の有識者の間で少なからず語られてきたが、結局のところその要因を打破できる手段は見つかっていない。
そんな状況下において明るいニュースとして飛び込んできたのが、今回の「XM1」発表のニュースだった。
※この内容は発売の2ヶ月前に書かれたもので実際とはことなる可能性があります。
XM1のターゲット層はどこにあるのか?
「想像を超えた世界へ。」
これがXM1のキャッチコピーだ。
特設ページを見てわかるとおり、この商品を訴求されているのは若いMTB初心者でもなければ、ましてベテランMTBライダーでもない。
MTBとは縁遠い中高年をターゲットとしているのだ。
もし若手を狙うならもっとアグレッシブなイメージを展開しただろうし、MTBを経験した中高年のリバイバル需要を狙うなら、「見たことのない景色」や「出会ったことのない体験」といったフレーズは登場しないはずだ。
こういう話をしてしまうと、なんだ自分たちには関係のないジャンルの商品なのか?とMTBに長年関わっている人は思ってしまうかもしれない。
だがそう決めつけるのは少し早い。
言い方は悪いが、もし完全ド素人相手の商品であればここまでのスペックは必要なかったはずだ。
もっと言えば、従来型のハリヤやジェッターといった類の商品に多少手を加えるだけで野山やジープロード程度なら十分こなせるポテンシャルはすでに持っていたのだから。
ここまで攻めてきたということは、この自転車はもっと高い位置を狙えるという含みを持っているに違いない。
過去から見てもパナソニックという大きな会社の販売戦略において、こういった表現は非常にポピュラーであり、これこそがパナソニックブランドのあるべき姿である。
仮にもしXM1のキャッチコピーが
「Innovate or Die”(革新を、さもなくば死を)」だったらどうだろうか?
もしオープニングムービーが「ノースショアスタイル」だったら...
一言で表すなら、「パナソニックらしくない」
である。
つまりXM1は「世間体に配慮した羊」の皮をかぶった「アグレッシブな狼」である可能性も無いとは言いきれないのではないだろうか。
意外と高かったXM1のスペック
発表直後の各SNSの反応を眺めていたが、
「こんな高い自転車を誰が買うのか?」
「ドロヨケがついてない」
「オートバイが買える」
「坂を人力で登ってこそ自転車だ」
といった定番のアンチコメントから
「かっこいい」
「街乗りで使ってみたい」
「妥当な金額」
「待っていた、やっと出たか」
など、様々な反応が見られた。
もしこれがcommencalを取り扱うジオライドジャパンの打ったプレスリリースだったとして、ここまでの反応が得られただろうか?
答えはNoである。
パナソニックゆえに多方面からの声を拾ってしまい、それがノイズとなってこのXM1の正体をよりいっそう不明なものにしてしまっているのだ。
果たして純粋なMTBとしてどの程度の実力があるのか、スペックとジオメトリーから迫ってみたい。
主要な部分を抜き出したスペック
まず率直に思ったのが、よくまとまっているということ。
以前パナソニックのフラッグシップとして存在した「チタンフラットロードEB」というXM1の2倍の価格を誇る電動クロスロード。
この自転車のスペックは廉価な主婦向けアシストのユニットにXTのMTBフルコンポ、チタンのアウトバテットフレームに、細めの26インチタイヤというチグハグなものだった。
もちろん満足して愛用しているユーザーもいるということは存じ上げているが、約70万円という高額な価格設定でありながら、完成車として詰めの甘さが随所に見られる商品だったことを今でも強く覚えている。
それもあってか、このXM1は33万円というギリギリ売れそな金額にギリギリ許せるスペックがうまくマッチングされていて余計に感心してしまうのだ。
まずスペックを上から順に流し見ても、これは絶対NGという項目は1点しかない。
とりあえず、幅580mmという90年代の遺産のようなハンドルバーは即日燃えないゴミに出すとして、あとは上出来と言っていいだろう。
ちなみにこの580mmのハンドルも日本の法律に沿ったもので、600mmを超えると「普通自転車」の枠を超えてしまうため、あえて承知の上で選択していると思われるが、現在700mm超えが当たり前のMTB界で580mmはさすがに狭すぎる。
公道を走るためには必要かもしれないが、この自転車は山に行くためのものなのだから。
こういう部分に愚直に対応するのは国内でもパナソニックくらいなものだ。
その点を除けば、基本コンポネートはシマノSLXの10速と一部ディオーレの混合で不満はない。
11速でない理由として、おそらくだがチェーンの「CN-E6090-10」を使うためだろう
これはシマノの海外向け電動ユニットであるE6000シリーズSTEPSに付随するコンポネートに一部である。
海外仕様のシマノ電動コンポ「E6000シリーズ」に含まれる『CN-E6090-10』というチェーン— フィクションサイクル店長 (@fiction_cycles) 2017年3月23日
Eの名が示す通り電動用でフロントはシングルのみの対応
おそらくプレートの厚みを増して強度を上げるのと引き換えに、変速ピン非対応になったんだろうな、と予想 pic.twitter.com/5Ec0JH3RdM
CN-E6090-10を以前現物を入手して各部を確認したが、このチェーンは裏表があるいわゆるHG-Xタイプということ以外についてはプレートの違いなど正直よくわからなかった。
さらにタイヤもマキシスのebike対応のIKONとなっているが、国内仕様でここまでする必要があるのかと思わせるくらいのスペックを準備してきている。
フォークはSR SUNTOURのレイドン。
品番はSF16-RAIDON-XC-DS-RL-R-15QLC32 27.5 CTS
価格は49,000円とそれなりにお高め。
ブランドイメージは他社に一歩足りないが、有名どころのフォークを使って価格があと3万円アップするよりは間違いのない選択だと思う。
SR SUNTOURのHPによればフォーク重量は2kgジャストとこの価格帯ではまずまず軽い。
それと、ここのフォークはレッグを抜いてピン位置を打ち替えるだけで比較的簡単にストローク変更ができるのも特徴の一つで、出荷時は100mmのストロークでありながら、120mmへの変更も可能だ。
せっかくポテンシャルを持ったフォークなので、こういった作業に慣れた販売店で調整してもらうのが良いだろう。
これが出来るか出来ないかで販売店のレベルを推し量られては自転車店もいい迷惑かもしれないが。
おそらくこのXM1には将来的にとてつもない金額を投じてカスタムを行う猛者たちが現れるだろうが、ハンドルとステム以外は一切交換しなくても十分に山を堪能できるスペックが備わっているので、ある意味無改造で乗ったほうがスマートでカッコよく見えるかもしれない。
唯一の気がかり、ワンサイズのフレーム設定
スペック上では157~183cmとかなり幅広い身長設定がされているそれだけ素晴らしい設計なのかといえばそんなことは絶対にありえない。
一般的にひとつのフレームサイズでカバーできるのは10cm差からせいぜい15cm差くらいのものだろう。
26cmもの身長差をワンサイズでカバーするのは絶対的に無理がある。
ただ絶対と言っても、それは適正かどうかの判断基準は曖昧で、乗れるか乗れないかはまた別の話だ。
XM1のフレームサイズは400mmであり、一般的なMTBで言えば適正身長150~170cmが大体のメーカーの平均値となっている。
日本人の20歳以上の平均身長が男性で約172cm、女性で約158cmなのでメーカーの設定した適正身長ではやや小さい。
それはフレームサイズの縦パイプ長を基準に考えているからであって、本来はトップチューブ長(上パイプ長)で見るのが正しい。
なぜならこのXM1には幅広い身長に適応するように小細工が仕込んであるからだ。
手っ取り早く言ってしまえば、縦パイプは低く、上パイプは長い。
縦パイプ(A)400mmはSサイズにあたり、上パイプ(B')576mmはMサイズに近い。
低身長の人に起こりえるのは足付きの悪さで、高身長の人はトップの詰まりが乗車時にネックとなるが、これを同時に解決する手立てとして、Mサイズ(実際はそれより少し小さい)のフレームを無理やり潰してSサイズにしていると思えば良い。
つまり、このフレーム形状もただデザインというわけではなく、ワンサイズで幅広い身長をカバーするための苦肉の策だったのかもしれないということだ。
じゃあ、2サイズ用意すればいいのでは?となりそうだが、おそらく2サイズ展開するほど売れるとは彼らも思っていないのだろう。
パナソニックは1mm刻みのフルオーダーを受けるマスプロメーカーであり、サイズフィッティングの重要性を知らないはずがないからだ。
背の高いライダーは30.9mmの長めのシートピラーを、
背の低いライダーはOS31.8mmクランプの短めのステムを用意しよう
XM1の重心はどこにあるのか?
「自転車の真ん中に乗る」MTBを乗りこなす上で重要となるキーワードがこれだ。
ロードバイクではさほど意識することはないが、平坦な路面だけが相手ではないオフロードを走るときは必須の項目となる。
正直なところ、MTBに乗って山で遊ぶのに、コンポネートのグレードがどうだとか、フレームの素材がどうだとか、そんなことを真剣に真剣に考えたってまったく楽しくない。
自転車の真ん中に乗って、自由自在にバイクコントロールできる喜びを味わうのは、まさにMTBの醍醐味である。
個人的には、電動の具合やコンポネートの部分なんて本当はどうでもよくて、重量のバランスやポジションがキッチリ出るのかというほうが大いに気になっている。
そこで乗り慣れた普通のMTBと比較してどの程度ジオメトリーに違いがあるのか見ていきたい。
先ほど例に出してしまったコメンサルを再登場させてみる。
METAのハードテイルはよく出来た設計だと思う。
それなりに乗り込んだこともあって、特徴は掴んでいる。
コメンサルMETAのジオメトリー表
ジオメトリーはMサイズでトップ長580mmとXM1に対して僅かに+4mmだけ長い
適応身長はそのMサイズで168~178cmなので、XM1もそれに近しい身長の人がもっとも適した乗り手だと言える。
半透明のグリーンがコメンサル
BB位置で合わせた場合、XM1はユニット分だけリアセンターが遠くなっている。
またヘッド角の違いでフォークアングルが2度ほど立っているためフロントタイヤは近い位置に来ている。
重心はこの時点で数センチほど前に寄っていると見ていいだろう。
次にタイヤ位置でこの2台を重ねてみる。
XM1は電動でありながら、一般的なMTBとほぼ同じホイールベースを持っていることが分かる。
ただ乗車位置はかなり前のほうであるため、実際に乗ればかなりの前加重を感じることになるだろう。
そしてさらにそれを助長すると思われるのが、MTBそしては長めの90mmのステムと最大の重量物であるユニットとバッテリーの存在だ。
実際の重さについては詳しく記載はないが、過去のユニットと12Ah相当のバッテリーがどれくらいかと言うと、ユニットが約4kg、バッテリーが約2.2kgなので、ダウンチューブに2kgの鉄アレー2個を並べて括りつけたぐらいが感覚として近しいと思われる。
ここを是正しない限り、このXM1は自分にとって乗りずらいバイクになってしまう可能性が高い。
まず出来る範囲の調整として、
・サドル位置を5~7cm後ろに引く
・ステムを50~60mmのものに変更する
・フォークのストロークを120mmに伸ばしてトレール幅とシート角を稼ぐ
こんなところだろうか?
自分の好みとしてトップ長をあと25mm追加、ヘッドアングルを68度から66度へ
設計フォークを100mmから140mmくらいにしていただければおおむね満足なのだが、これでかなり現代風になると思う。
あとは実際に乗ってみてのお楽しみだ。
XM1カスタム
ポジションについては純正状態かなり改善したように見える。やはりダウンヒルバイクとしてのエッセンスを混ぜたくなるのが心情というもの。
最終的には重量バランスとポジション、そしてギア比などを細かく詰めてセッティングしたいところだが、まだ現車が出回っていないため、今回書いた内容が真実かどうかは9月になってから明らかになるだろう。
XM1は買ってもいい自転車か?
おそらくXM1は発売の段階でかなり完成度の高い乗り物となるだろう。ただそれは変り種の電動アシストマウンテンバイクの日本初モデルとしてだ。
さすがに万人に手放しでオススメしようなんてものではない。
このMTBを買っても後悔しないタイプの人間は次の通りだ。
・サイクリング程度に野山を走って健康維持やリフレッシュをしたい人
・身長165~175cmですでにMTBの経験があるが体力面に自信のない人
・資金や置き場に制約がなく、XM1を買うことにまったく躊躇のない人
・今後e-MTBが国内で普及した時に元祖を名乗りたい自転車店の人
フィクションサイクルは2005年の初代ライアバードEBのときからこんなことをやっているので、もちろんXM1も発表と同時に即発注である。
それから12年が経ち、国内モデルの電動アシストであらゆるシーンを走りきったし、欧米向けのe-MTBモデルも現地まで行ってほぼ制覇した。
はっきり言ってこのくらいの余裕がなければ、容易に手が出せる商品ではないことは分かっている。
日本には電動アシストで山を走る文化はおろか、MTBで山を走ることだって実際に体験した人はほとんどいないのが現状だ。
そんな土壌に海外で流行っているからといきなり商品だけが登場しても、消費者たちは何をするための道具なのかを正しく理解できず混乱することだろう。
そして「未知のモノを自身の経験に基づき、違いを見つけては批判する」のだ。
マウンテンバイクに乗ったことない人が、電気に頼るなんてダメだと決め付ける
海外の高価なe-MTBを知り尽くした人が、こんな完成度では乗る気がしないと否定する
この中に購入者となる人はほとんど含まれていない。
ただ外野が騒がしいだけなのだ。
そしてXM1の発表直後に業界で有名な方のツイッターに上がったのがこちら。
もし実現したら面白い企画になると思う。Panasonicから電動アシストMTBの試乗車借り出して、富士見パノラマでアホほど酷使して、パナからアホほど怒られるやつやりたい。— TKC Productions (@tkcproductions) 2017年7月4日
僕がジェレミー・クラークソン役しますので、、。番組名はLow Gearだな。
まずはこういったMTB文化を肌で理解している人を取り込んでいかなければ、末端の人々まで正しく伝達することは困難だ。
MTBの楽しみは根性で山岳を駆け上がることだけではない。
それはMTBがどのように発祥したのかを調べればすぐに判明する。
今だってマウントタムにXM1を持っていけばどこからともなく人が集まり彼らはそれで遊び続けるだろう。
※なぜかマリンカウンティにはぜんぜん電動マウンテンが走っていません
スペックや電動の存在についてあれこれ議論するのは置いておいて、まずは電気の力を借りて山に登り、そこから一気に下る。
フラットな舗装とは違い、アクションひとつひとつに正解と間違いがある。
その答え合わせをしながら自然と向かい合う瞬間は非常に充実している。
その充実感をよりいっそう際立たせるのがXM1という存在になるのかもしれない。
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